INTERVIEW

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体と土とが巡る暮らし

城田文子/料理家

海が見下ろせる、鳥取県大山の小屋で自給自足の暮らしを営みながら、認定こども園のレシピ監修など、心と体のバランスを支える食のあり方を探究する料理家、城田文子さんにお話を伺いました。(2021年12月)

聞き手:門倉未来

写真:山本康平

なんだかこっちが本当な気がする、と
食の世界へ。

うちは特に食へのこだわりがあるような家庭ではなく、自分もそこまで食を大事にしていませんでした。私は元々は体育教師を目指していたんですよ。母が教員だったために教員は身近な職業でしたし、学校で運動することも好きだったので。そこまで深く当時は考えていなかったと思います。自然な流れで母と同じように教員を目指していたのですが、高校の頃に闘病していた母が亡くなり、「はて?」と立ち止まってしまいました。母が亡くなったことがやはり辛かったので、大学時代はとにかく全然毎日が楽しくなかったんです。そんな状態だったからこそ、たまに山に行ったりはしていて。地元松本の山から近いという理由で、安曇野のペンションに滞在してみました。そこではパーマカルチャー菜園でお野菜も作っていて、マクロビのご飯がすごく美味しかったんです。自分の今まで知っていた「美味しい」とは全然違う「美味しい」に出会ったんです。「あ、生きてる」って思いました。そこで初めて食べ物の力を知りました。ペンションの本棚には東洋医学や漢方など、医師だった父の西洋医学とも違う、自分の知らない未知の医療の世界の本が並び、マクロビもヨガもそこで初めて体験して。「これだ!」「こっちの方が何だか本当な気がする!」と、料理の道へ進むことを決め、そのペンションで1年ほど働かせていただきました。その後数年ほど名古屋を拠点にオーガニックカフェに勤めたりしたのちに、28歳の頃に独立しました。

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友人の鳥取での小屋暮らしに惹かれ、
移住を決める

独立してからしばらくは名古屋が拠点だったのですが、やはり都会だったので、そろそろ畑仕事もできるような田舎に拠点を移したいと思っていたところ、色々なご縁もあって篠山で暮らし始めました。篠山で何度か演奏しに来ていたミュージシャンのOlaibiさんと出会ったのはその頃です。一緒にご飯を食べたりして仲良くなって、そのうちに彼女たちの大山(鳥取)の小屋も訪ねるようになったのですが、そこがとても素敵で! こんな暮らし方があるのか、と惹かれていきました。彼女に「こっちで住んでみたらどう?」と背中を押されたこともあり、彼らのご近所さんになることを決めました。今日もオライビさんの住む小屋に遊びにきていて、一緒に滞在しているゲストのみんなと暖炉を囲んでいます。そんなふうに冬の間は暖房の効率化のために、ご近所で集まって過ごすこともあります。(2021年12月現在)

食べる、出す、
土に還る、育つ、のサイクル

というわけで、そのペンション街を通り抜けた国有林の手前に400坪の森を買って、友人たちの力を借りて開拓しました。電気と水は引いてますが、下水は通して無いんです。水は標高1700mの大山(だいせん)が、2000年かけて雨水を濾過した湧水です。土って濾過装置なんですよね。そういう水なので、水の使い方と捨て方については、よく考えるようにしています。排水はそのまま森に還せるよう石鹸は使いません。お湯は出ますので特に困らないです。食器の油物は洗う前にきちんと紙で拭き取って、紙は暖炉で燃やします。トイレはコンポストトイレです。ほとんど溜まっていかないんですよ。すごい速さで分解されて、土に還っていくので、私一人だったら年に一度中身を入れ替えれば済むほどです。……食べ物の話をしようとしてるのに、なかなか食べ物に辿り着かないですね(笑)。ですが現代のほとんどの暮らしでは、水洗トイレからアスファルトで覆われた地下に流れていって、目隠しされてしまうので、食と排泄のつながりを実感する機会がないですよね。でもコンポストトイレで排泄物がすごい速さで分解されて土に還ってゆくのを見ると、自分の食べる物にもやはり気を遣うようになります。やはり不健康だったり、変なものを食べていると、微生物にうまく分解されずに腐敗してしまう。これは誤魔化しようがないですよ。まるごと感じざるを得ない。自分が食べてるもの、腸の状態と健康状態、排泄するものとが、当たり前に循環していたら気持ちがいい。そうやって繋がれる土があるのは贅沢なことです。そうして、トイレでできた堆肥は最後に畑に還します。残飯や野菜クズのは、土に直置きするタイプのコンポストを自作して使っています。私が給食を監修している広島の認定こども園でも、市からミミズコンポストが無償で支給されているんですよ。こども園のような大きな施設だと野菜クズの量も多くて、なかなか普通の微生物コンポストでは分解が追いつかない。なのでミミズコンポストと両方でやりくりしてるようです。ミミズコンポストはすごいですよ。驚くほどの速さで分解していく。微生物コンポストの比では無い。

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大山の食の魅力

お米は無農薬天日干しのものを、ご近所のマサちゃんというおばあさんから買ってますが、とても良心価格です。こども園のお米も、広島まで私が届けています。給食費をなるべく抑えることも大事なことと思うので。日本海までは車で40分程度で、近くの商店まで新鮮で手頃な価格帯の魚が届きます。山なので家から海が見えますよ。野菜はいただくこともありますが、畑をやってるので、はほぼ自分で育てたものでまかなってます。今採れるのは(2021年12月現在)、大根、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリ、スティックセニョール(スリムなブロッコリ)、水菜、芽キャベツ。雪除けの寒冷紗の下にはカブ、小松菜、ほうれん草、ビーツ、春菊、山東菜、唐辛子……。あとは来年のためにそら豆も蒔いてあります。このあたりの土は、大山の火山灰に由来する黒ぼく土で、弱酸性なので石灰をまかないと育つ野菜は限られてしまいます。日本海側で雪深いので、雪に埋もれた野菜の収穫が大変ではありますが、雪の保温効果で土は凍結しないんです。あとはこの辺は水も名水なので牧場が盛んで、乳製品が美味しいです。今まで訪れたどの土地よりも食材のバランスがよく、何でも美味しい土地です。

現場で育まれる食の理念。
広島の認定こども園の料理監修

私が関わらせて頂いているこども園は、認定ではありますが、栄養基準に収まりきらない食の情緒とも言えるような大切なことを、子供たちに伝えていきたいと考えています。他にも保護者の方々のご要望も入ってきます。逆に何を食べさせるべきか悩んでいる保護者の方々をサポートする役割を給食が担っていたりもします。現場には調理師さんと栄養士さんもいるので、私は立ち上げ以降は献立の細かいところまでは関与していません。献立自体はそんなに重要じゃないんです。お野菜の胡麻和えやおひたしにしたり、炒めたり……そんなに凝ったものを食べさせなくてもいいかなと思ってます。それよりも、どんな素材をどのように手に入れて、どんなふうに調理するかといった、根本的なことを重視しています。最初は味噌汁一つとっても、具材まで私が決めていたんですが、やはり鳥取と広島の旬はずれるので、土地の旬のものをもっと献立に活かしていきたいと思ったんです。ですので、基本理念を現場の調理師さんと理念を共有した上で、旬の食材を取り入れながら、現場のスタッフ自身に考えを深めてもらう方向に落ち着きました。月に5日ほど現場に赴いて一緒に食の環境をつくっています。保育士さんにも定期的に厨房へ参加していただいてます。やはり調理場での会話など、さりげない交流や連携の中から学べることは多いし、子どもたちとの給食時間の過ごし方にもつながってゆくので。そのようにして園の食の理念を現場で五感を通じて学んでいただくようにしています。逆に厨房のキッチンスタッフの皆さんも一緒に配膳をして、子どもたちと食卓を囲むんです。飲み物は色々と出すのですが、だいたいはノンカフェインの番茶や野草茶。大きなやかんでたっぷり沸かして、ご飯の時とおやつの時に飲んでいます。認定こども園では、国の推奨するカルシウム摂取量の基準値を満たすために、週に何度か乳製品を献立に取り入れているのですが、園では木次乳業さんから取り寄せています。木次さんの牛乳はノンホモ(脂肪を均一化しない)牛乳。そして栄養成分や風味を損なうことなく有害な細菌を死滅させるパスチャライゼーションが施されていて、美味しくて安心。それを砂糖不使用のケール&バナナジュース、ホットミルクティー、ホットケーキに入れたり、ミルクプリンやヨーグルトにしたりして、おやつの時間に提供しています。色々とこだわっているようですが、決して高価ではないんです。経済的な負担にはならない範囲で良い食事を提供できるように心がけています。

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飽きずに、毎日、
いつでも飲める飲みものを探して

すごく最近考えています。梅ジュース、ドクダミ酵素ジュース、ウコンのペースト……色々と作りましたが、これからは砂糖不使用で、毎日飽きずに飲める、食事にも合わせられる飲み物を開発したいです。スロージューサーで作るコールドプレスジュースを日本に初めて紹介した方が、先日うちに遊びに来られたんですが、驚きました。りんごや梨など地元の旬の果物をベースにしつつ、ピリ辛ピーマン、アロエでとろみをつけて、その時うちの畑から採れたもので即興で作ってもらったジュースは、目が見開くというか……細胞レベルで目覚めるような感覚でした。料理を生業にしているので、素材そのもののエネルギーを引き出すシンプルな調理法にハッとさせられました。あとは、カカオティーに最近はまってます。チョコレートを作った時に出るカカオの皮をハスクというのですが、その皮を廃棄せずに活用するお茶がとても良いんです。食事にすごく合うんですよ。ミントとの相性も抜群で、ちょっとしたおやつがわりにもなるし、朝イチにも飲める。じわっと体がゆるんで、目覚めてゆく感じがします。夜のノンアルドリンクっぽいニュアンスも無くはない。

これからもっと広がるはず。
食卓の日本酒

私は一人でお酒を飲むことは稀なんですが、みんなで食卓を囲むお酒は大好きです。お酒と食事は人と人をつなぎますよね。日本人ってビール、日本酒、ワイン、紹興酒と何でも飲みますよね。これは世界的にも割と特殊な食文化のような気がします。料理も和洋折衷で、白和え、あんかけ、そして……セビーチェ!が同時に食卓に上るような事態は日本ではあり得ますよね(笑)。そうなった時、ワインやビールは割とストライクゾーンが広めですが、日本酒は何でもござれ、とは言い難いですね。それは私たちの父親世代の日本酒の基準が、雑味のない、切れ味やクリアな喉ごし一辺倒だったせいもあるかもしれません。ですが最近は、クラフトビールもナチュラルワインの流行にもみられるように、雑味のある自然な味がやっぱり美味しいよね、という時代に戻ってきている感があります。素材が自然発酵して生まれる野生的な雑味を個性として嗜む傾向と言いますか。そして、一本釣り狙いの高級なお酒よりも、いかに普段の食卓の選択肢に入れられるか、というお酒にシフトしている傾向が世界中で感じられますね。最近はクラフトビールもナチュラルワインも、こんな田舎に住んでいても簡単に手に入るようになりました。そうして世界のお酒事情を俯瞰してみると、日本酒はずいぶん伸びしろがあるように思えます。まだ多くの日本酒が、外食のおつまみを基準とした味の設計になっていて、食事に合わせる日本酒というのは、まだ発展途上なのかもしれません。今までの業界標準が非常に狭かっただけに、食という場を楽しめる日本酒の可能性は今後もっと広がって、面白い分野になっていく予感がしています。

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城田文子

料理家。野菜を育て、味噌や醤油も手づくりするオーガニックカフェやペンションで10年ほど働いた後に独立。鳥取大山のアトリエ「SHIRO」を拠点に「一からはじまる野菜のごはん。山から。畑から。田んぼから。野菜の顔みてつくります。みんなの笑顔つくります。おいしいごはんがあればだいじょうぶ」をモットーに日々おいしいごはんをつくっています。

写真:Nobuaki Murakami